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東京地方裁判所 平成5年(ワ)8012号 判決

埼玉県東松山市大字大谷四一五二番地

原告

ベルテック株式会社

右代表者代表取締役

坪井一高

右訴訟代理人弁護士

池田浩一

東京都田無市芝久保町二丁目一一番一六号

被告

チューナー株式会社

右代表者代表取締役

大橋環

右訴訟代理人弁護士

藤平克彦

右補佐人弁理士

大内俊治

主文

一  被告は、原告に対し、金三八七〇万三四五〇円及びこれに対する平成五年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、四五一五万四〇二五円及びこれに対する平成五年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、被告による別紙「被告装置目録」記載のカセット装填装置(以下「被告装置」という。)の製造販売が、原告が有していた特許権の侵害に当たると主張して、損害賠償(実施料相当額及び遅延損害金)を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は次の特許権(以下、これを「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)の特許権者であった。

(一) 発明の名称 カセット型テープレコーダにおけるカセット装填装置

(二) 出願年月日 昭和四四年二月二一日

(三) 出願番号 昭五二-二一四四号

(四) 出願公告年月日 昭和五七年七月三日

(五) 出願公告番号 昭五七-三一二一三号

(六) 登録年月日 昭和五八年三月二四日

(七) 特許登録番号 第一一三九八四八号

(八) 特許請求の範囲 別紙「特許公報」の該当欄記載のとおり

(九) 存続期間満了日 平成元年二月二一日

2  本件特許発明の構成要件は次のように分説できる(以下、それぞれの構成要件を「構成要件(一)」などという。)。

(一) 録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセット収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセットをカセット収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセット型テープレコーダにおいて、

(二) カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセットに係合してカセットの挿入脱出に関与するスライド片を設け、

(三) 該スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けたこと

(四) 右(一)ないし(三)を特徴とするカセット装填装置

3  被告装置の構成は、別紙「被告装置目録」記載のとおりである(ただし、右目録中の網掛け部分、すなわち、四頁一行目の「前記段部7y、7yが長溝6の背面両縁に当接して、」の部分、及び、同頁一二行目から五頁二行目までの「もって、スライド片7の板状部7eの中間部より先端側の突起部7bの突出部分を除いた段部7y、7yより膨出部7dにかけての上部は、前記空間部分5の幅狭の部分及び同部分の両側縁部1e、1eの立ち上り部より上方の架橋板1cの背面内の空間部分を架橋板1cに接触しながら移動する。」の部分については、原告は被告装置が右の各部分記載の構成を有すると主張するのに対し、被告はこれを否認している。)。

4  被告は、本件特許権の登録後である昭和六〇年から平成元年二月二〇日までの間に、一二九万〇一一五台の被告装置を業として製造し、販売した。

二  争点

1  被告装置が、本件特許発明の各構成要件を充足し、本件特許発明の技術的範囲に属するか。特に、

(一) 被告装置が「テーププレーヤ」の装填装置である点において、構成要件(一)の「テープレコーダ」の装填装置という構成を充たすか。

(二) 被告装置のカセット収納函の上面に形成されているのが「空間部分5」であり、この部分を「スライド片7」が摺動しない点において、構成要件(二)の「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され」た「スライド片」という構成を充たすか。

(三) 被告装置のタンブラーバネの端部が回動板に係着され、装置本体に固定されていない点において、構成要件(三)の「スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けた」という構成を充たすか。

(四) 本件特許発明と被告装置とが作用及び効果の点で同一であるといえるか。

2  原告が被告に請求し得る損害賠償の額

三  当事者の主張等

1  右の各争点に関する当事者の主張は、構成要件(二)に対応する被告装置の構成に関する部分につき次のとおり訂正するほか、別紙「当事者の主張」(平成九年一二月二四日付け第三七回準備手続調書の別紙「要約調書」の「第二当事者の主張」の部分)記載のとおりである。

(一) 原告の主張につき、別紙「当事者の主張」の一5(一)(2)(四頁及び五頁各上段)を左記のとおりに訂正する(平成一〇年三月六日付け原告最終準備書面(六)参照)

「カセット収納函1の上面には、その前後に幅広い部分と幅狭の部分を有した空間部分5、そして吊板2の上面にはその前後方向に長溝6が形成されている。

7は全体がほぼ鈎型をしたスライド片であり、このスライド片7はその奥部下方に突出部7aが垂設され、手前の先端部の下部には突起部7bが設けられている。

第4図(A)に示すように、カセット収納函1にカセットaを挿入した際に、カセットの上面にスライド片7の突起部7bが乗り上げると板状部7eが湾曲して、第4図(B)に示すようにカセットaの軸穴a’に突起部7bが嵌合されると同時にカセットaの先端で突出部7aが押されて、板状部7eが段部7y、7yと上面のガタ分下向きに傾いて板状部7e及びその先端部はカセットaの上面に密着し、カセットaと共にスライド片7は空間部分5及び長溝6を移動させられる。

なお、スライド片7の板状部7eの中間部より先端側の突起部7bの突出部分を除いた段部7y、7yより膨出部7dにかけての上部は、前記空間部分5の幅狭の部分及び同部分の両側縁部1e、1eの立ち上がり部より上方の架橋板1cの背面内の空間部分を架橋板1cに接触しながら移動する。」

(二) 被告の主張につき、別紙「当事者の主張]の二5(一)(2)(四及び五頁下段)を左記のとおりに訂正する(平成一〇年一月二三日付け被告最終準備書面(五)及び同年六月二日付け被告最終準備書面(七)参照)。

「〈1〉 請求原因5(一)(2)のうち、「幅広い部分と幅狭の部分」との記述は、別紙「被告装置目録」の記載に即しておらず誤りであり、正しくは、「幅広い部分を、中間に幅狭の部分」である。

〈2〉 「スライド片7は空間部分5及び長溝6を移動させられる。」との主張は、別紙「被告装置目録」中の「スライド片7は吊板2の長溝6の終端まで移動させられる。」という記述と相違するので、否認する。

たしかに被告装置目録中には、スライド片7の限られた一部が空間部分5の一部を通過する趣旨の記載はあるが、原告の全主張及び原告最終準備書面(六)の訂正理由中の「スライド片7が空間部分5を『移動』ないし『摺動』する」などの主張に鑑みると、「空間部分5及び長溝6を移動させられる」という表現で「空間部分5もまた長溝6と同様にスライド片7が摺動自在に装着されている」という、評価をも含めて主張する趣旨のように読みとれる。さらに、原告は、特許明細書中の「摺動」は「移動」と同義であると主張し、「移動」に積極的・目的的な意味を持たせようとしている。空間部分5は、スライド片7が長溝6を摺動しつつ移動する際に、カセット収納函に接することによって移動が妨げられないように設けられた逃げ部であり、スライド片7の板状部のたわみを許容するためのものである。したがって、仮にスライド片7の一部が空間部分5の一部を通過するとしても、これをスライド片7が空間部分5に対しても原告が意図するような意味において「移動させられる」とはいえない。」

2  被告は、前記「要約調書」の作成後、本件特許権には明白な無効事由が存在するから、原告の請求は権利の濫用に当たるなどと主張している(詳細は平成一〇年三月六日付け被告最終準備書面(六)参照)。

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告装置が本件特許発明の技術的範囲に属するか)について

1  後掲の証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件特許権に係る明細書(別紙「特許公報」参照)には、本件特許発明の作用、効果等につき以下の記載がある(欄及び行数は、右特許公報のものを指す。)。(甲一)

(1) 本件特許発明の技術分野(1欄20ないし23行)

本発明は、カセットをカセット収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセット型テープレコーダにおけるカセット装填装置に関するものである。

(2) 従来技術及びその欠点(1欄24ないし37行)

録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセット収納函にカセットを挿入し、ともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめてカセットを装填する型式のカセット型テープレコーダにおいては、カセット挿入時に、カセット収納函に対するカセットの水平方向の挿入完了時点で、カセット収納函とともに下方へ移動するので、カセットを押込み操作している手指の指先や爪先に傷害を起こすことが多く、また、カセットの脱出は、カセット収納函を録音、再生等の動作位置から動作待機位置に上動させた後収納されているカセットを押し出す二行程関連動作によって行われるので、その機構が複雑であるばかりでなく、カセットの脱出が円滑かつ適正に行われ難い欠点があった。

(3) 本件特許発明の構成(2欄1ないし11行)

本発明は、上記のごとき従来の欠点を一掃すべく創作されたものであって、録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセット収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセットをカセット収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセット型テープレコーダにおいて、カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセットに係合してカセットの挿入脱出に関与するスライド片を設け、該スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けた。

(4) 本件特許発明の作用(2欄12ないし17行)

カセット収納函に対するカセットの挿入又は脱出行程で、スライド片に係着されているタンブラーバネのデッドポイントを越えさせ、その際のタンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセットの挿入又は脱出動作を完了させることができる。

(5) 本件特許発明の目的(2欄17ないし22行)

カセット挿入操作を手指や爪先を負傷することなく安全に行うことができ、またカセットの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができるカセット型テープレコーダにおけるカセット装填装置を提供しようとするものである。

(6) 本件特許発明の効果(5欄17ないし6欄5行)

本発明によれば、カセットをカセット収納函に半分程挿入しただけであとは自動的にカセットが吸い込まれるので、少なくとも指先の負傷の不安感がないとともに、快適な装填が楽しめる。また、カセットの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができる等、多くのすぐれた効果が得られる。

(二) 本件特許発明は、昭和五二年一月一二日に、特許出願番号昭四四-一二五一一号の特許出願(出願日・昭和四四年二月二一日。以下「原出願」という。)から分割して出願されたものである。原出願については、拒絶理由の通知及び明細書についての補正を経た上で、昭和四七年一二月九日に出願公告され(特公昭四七-四九〇一〇)、これに対し特許異議の申立てがされたが、出願公告決定後の補正を経て、昭和五三年四月一七日に特許をすべき旨の査定がされた。(乙二一ないし三五)

2  構成要件(一)の該当性について

(一) 構成要件(一)(「録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセット収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセットをカセット収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセット型テープレコーダにおいて、」)に対応する被告装置の構成は、次のとおりである(別紙「当事者の主張」五頁上段の一5(一)(1)及び同頁下段の二5(一)(1)のとおり、当事者間に争いがない。)。

「1はカセット収納函、2は吊板、3は装置主体であって、カセット収納函1が吊板2に回動自在に接続され、かつ、第1図と第7図間との動作変位の相違に示すごとく、この吊板2の他側2bは装置主体3に対して回動自在に接続されている。こうして、前記カセット収納函1は、吊板2の装置主体3に対する接続部を回動枢軸として、上下移動自在に形成されたカセット型テーププレーヤである。」

(二) 被告は、別紙「当事者の主張」の三1(八頁下段)記載のとおり、被告装置は再生機能しか有しないテーププレーヤであって、録音機能と再生機能を有するテープレコーダではないから、構成要件(一)を充足しないと主張している。

(三) そこで検討すると、本件特許発明の特許請求の範囲には、「録音、再生等の動作位置」及び「カセット型テープレコーダ」と記載されているが、本件特許発明はカセット装填装置に係るものであり、カセット型テープレコーダ及びカセット型テーププレーヤに共通して組み込み可能な装置である。また、本件特許発明の特徴は、カセットの挿入及び脱出に関する構成に存するのであって、カセット装填装置の構成に関しては、テープレコーダとテーププレーヤとで技術上の差異はないと解されるから、本件特許発明においてカセット装填装置を組み込む対象として、録音及び再生機能を有するテープレコーダと再生専用のテーププレーヤとが格別区別されていたとは考え難い。そして、テープレコーダとテーププレーヤとの相違点は、専ら録音機能の有無に存することからすると、テーププレーヤは、本件特許発明の構成、作用及び効果に直接関係しない機能を欠くにすぎないものということができる。また、本件特許出願当時、録音機能を備えない再生専用カセット型プレーヤが製品として一般に普及していたとは認められず、「カセット型テープレコーダ」の語が録音機能の有無を問わず広くカセット式録音テープの再生機能を備えた製品を意味するものとして用いられていたと解されることに照らしても、本件特許出願に当たって「カセット型テープレコーダ」の語が録音機能を備えない再生専用プレーヤを排除する趣旨で用いられたものと認めることもできない。

以上に照らせば、構成要件(一)にいう「テープレコーダ」には、録音機能を有さない再生専用テーププレーヤも含まれると解するのが相当であり、被告の右主張は採用できない。

(四) また、構成要件(一)のうち、「録音」及び「カセット型テープレコーダ」以外の点については、被告装置がこれを充足することにつき、当事者間に争いがない。

(五) したがって、被告装置の右構成は、構成要件(一)を充足する。

3  構成要件(二)の該当性について

(一) 構成要件(二)(「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセットに係合してカセットの挿入脱出に関与するスライド片を設け、」)に対応する被告装置の構成については、前記第二、三1(一)及び(二)のとおり争いがあるところ、証拠(検乙一)によれば、被告装置は次のとおりの構成を有すると認められる。

「カセット収納函1の上面には、その前後に幅広い部分を、中間に幅狭の部分を有した空間部分5が、吊板2の上面にはその前後方向に長溝6が、それぞれ形成されている。スライド片7はその奥部下方に突出部7aが垂設され、手前の先端部の下部には突起部7bが設けられている。カセット収納函1にカセットaを挿入した際に、カセットaの上面にスライド片7の突起部7bが乗り上げると板状部7eが湾曲して、カセットaの軸穴a’に突起部7bが嵌合されると同時にカセットaの先端で突出部7aが押されて、板状部7eが段部7y、7yと上面のガタ分下向きに傾いて板状部7e及びその先端部はカセットaの上面に密着し、カセットaと共にスライド片7は吊板2の長溝6の終端まで移動させられる。」

(二) そこで検討すると、まず、構成要件(二)のうち、「カセットに係合してカセットの挿入脱出に関与するスライド片を設けたこと」という構成を被告装置が充足することについては、被告はこれを特に争っていない。

(三) 次に、構成要件(二)のうち、「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され」た「スライド片を設け」たとの構成についてみると、前記認定の事実及び争いのない事実によれば以下のように解することができ、これに照らすと、被告装置の右(一)記載の構成は、構成要件(二)のうちの右構成を充足すると判断するのが相当である。

(1) 本件特許発明の構成要件(二)のうち、「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され」た「スライド片を設け」たとの構成は、〈1〉カセット収納函上面から吊板にかけて長溝が形成されている構成と、〈2〉この長溝にスライド片が摺動自在に装着されている構成とから成っているといえるので、それぞれにつき検討する。

(2) 右〈1〉の構成を、その文言が通常有する意味により解釈すると、「かけて」とは「場所又は時間の範囲がある場所又は時間から他の場所又は時間にまでわたっていること」を意味するから(甲二六)、「カセット収納函上面から吊板にかけて長溝が形成されている構成」は、カセット収納函上面と吊板のそれぞれに切欠き部分が形成され、これらが相互に連続し、かつ全体として細長い形状になっている構成でなければならないと認められる。しかし、本件特許発明の特許請求の範囲の文言上、右切欠き部分の具体的形状に右以上の限定が付されているとはいえないから、カセット収納函上面に形成された切欠き部分と吊板に形成された切欠き部分のそれぞれが単独で細長い形状になっていたり、両者が同一の幅で直線状につながっていたりする必要はないというべきである。

また、前記一1(一)で認定した本件特許発明の構成、作用等によれば、本件特許発明における構成要件(二)の技術的意義は、カセットを係合させたスライド片を、カセット収納函の上面から吊板にかけて形成された長溝に沿って移動させることによって、カセットをカセット収納函に収納するとともに、逆方向に移動させてカセットをカセット収納函から脱出させることにあると認められ、この技術的意義に照らすと、本件特許発明の作用及び効果を奏するためには、スライド片のうちカセットと係合する部分は、カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に沿って、カセット収納函上面に形成された切欠き部分と吊板に形成された切欠き部分の双方を移動する必要がある。そうすると、構成要件(二)の「長溝」は、スライド片のうちカセットと係合する部分がカセット収納箱の手前側から吊板の方向に移動できるための空間を提供するものでなければならないが、右のような移動が可能でありさえすればよいのであって、長溝全体の具体的形状に格別の限定は付されていないものというべきである。

これを被告装置についてみると、別紙「被告装置目録」記載のとおり(特に、右目録の第1図、第3図(A)、第5図(A)、同(B)及び第8図参照)、被告装置のカセット収納函1の上面には空間部分5が、吊板2には長溝6がそれぞれ形成されていて、これらが相互に連続し、全体として見ると細長い形状になっており、かつ、この部分をスライド片7のうちカセットaと係合する部分(スライド片7の突起部7b)が移動することができると認められる(なお、右空間部分5の前後には幅広い部分があるが、右に説示したことに照らせば、この幅広い部分は、本件特許発明の作用及び効果に関係しない範囲でカセット収納箱の上面に設けられた切欠き部分にすぎないといえるから、右空間部分5に幅広い部分があることは、全体として見ると細長い形状になっているという右認定の妨げとならない。)。そうすると、被告装置においては、空間部分5と長溝6により、一体として連続した「長溝」が形成されているということができる。

したがって、被告装置は、構成要件(二)のうち右〈1〉の構成を充足すると認められる。

(3) 次に、右〈2〉の構成についてみると、「摺動」とは「接触した状態ですり動かすこと」を、「装着」とは「目的の形をなすように取り付けること」をそれぞれ意味すると認められる(乙七、八)が、「長溝に摺動自在に装着され」という本件特許発明の特許請求の範囲の文言のみからでは、スライド片が長溝の全体にわたって摺動自在に装着されていることを要するかどうか、すなわち、長溝の一部に摺動されない部分がある構成が本件特許発明の技術的範囲から除かれていると解すべきか否かは、明らかでない。そこで、本件特許権に係る明細書の発明の詳細な説明の記載を斟酌することとする。

右(2)において説示した本件特許発明における構成要件(二)の技術的意義に照らすと、スライド片のうちカセットと係合する部分は、長溝のうちカセット収納函上面に形成された部分と吊板に形成された部分の双方を移動する必要があるが、本件特許発明の作用及び効果を奏するためには、スライド片全体が、カセット収納函上面及び吊板に形成された一連の長溝の全体にまたがって移動する必要はないと解される。

また、スライド片とタンブラーバネとの連動関係からも、スライド片のうち長溝と摺動する部分がカセット収納函上面及び吊板に形成された一連の長溝の全体にまたがって移動する必要はないというべきである。すなわち、本件特許発明においてスライド片が長溝に摺動されるように構成されているのは、タンブラーバネの弾発力の作用する方向をカセットが挿入され又は脱出する方向に変換するためであると認められる(このことを別紙「特許公報」の第3図で説明すると、カセットをカセット収納箱に半分程挿入してスライド片がタンブラーバネのデッドポイントを越えると、タンブラーバネの弾発力によって、スライド片及びカセットは、同図では右から左方向に移動して、カセット収納箱に自動的に吸い込まれる。このときタンブラーバネの弾発力は、タンブラーバネの両端部を結ぶ方向、すなわち、同図では左上方向に作用しているのであり、この弾発力をカセットが移動すべき方向、すなわち、同図では左方向の力に変換するためには、スライド片の側部が長溝の縁部に拘束される必要がある。このことは、カセットをカセット収納箱から脱出させる場合に、スライド片がタンブラーバネのデッドポイントを越えると右上方向に作用するタンブラーバネの弾発力を、カセットが移動すべき右方向の力に変換するときも同様である。右のようにタンブラーバネの弾発力の作用する方向を変換するために、本件特許発明においては、スライド片が長溝に摺動自在に装着されるという構成を採ったものと認めることができる。)。そうすると、スライド片は、タンブラーバネの弾発力の作用する方向を変換するという目的を果たすために必要な範囲内で長溝に摺動自在に装着されていれば足り、必ずしも長溝の全体(カセット収納箱上面に形成された部分と吊板に形成された部分の双方)に摺動自在に装着されていなくともよいというべきである。

これを被告装置の構成についてみると、別紙「被告装置目録」記載のとおり(特に、右目録の第3図(A)、同(B)、第5図(A)、同(B)及び第8図参照)、スライド片7は、連続して設けられたカセット収納箱1の上面の空間部分5と吊板2の長溝6のうち、吊板2の長溝6の部分に摺動自在に装着されており、右の範囲でスライド片7が長溝6に摺動することによって、カセットの収納及び脱出のいずれの動作に関しても、タンブラーバネの弾発力の作用する方向をカセットが収納又は脱出する方向に変換している。そうすると、前記(2)のとおり、カセット収納函1の上面の空間部分5と吊板2の長溝6は、一体として連続した長溝を形成しているものであるから、スライド片7は、その一部である長溝6の範囲内で摺動自在に装置され、タンブラーバネの弾発力の作用する方向を変換するという目的を果たしているということができる。

したがって、被告装置は、構成要件(二)のうち右〈2〉の構成を充足すると認められる。

(四) この点につき、被告は、別紙「当事者の主張」の三2(九頁ないし一二頁各下段)記載のとおり、本件特許発明は、長溝がカセット収納函から吊板にかけ渡って形成され、かつ、スライド片が右長溝に従ってカセット収納函から吊板にかけ渡って摺動自在に装着される構成であるのに対し、被告装置の長溝6は吊板2のみに設けられており、カセット収納函1の空間部分5にはスライド片7が摺動自在に装着されていないから、構成要件(二)を充足せず、このことは、原出願の審査経過に係る資料(乙二一ないし三五)や、本件特許発明より先願である発明(乙二)との対比からも導き出すことができると主張している。

しかしながら、本件特許発明の構成要件(二)が、長溝がカセット収納函から吊板にかけ渡って形成され、かつ、スライド片が右長溝に従ってカセット収納函から吊板にかけ渡って摺動自在に装着される構成に限定されないこと、被告装置のカセット収納箱1の上面の空間部分5及び吊板2の長溝6が構成要件(二)の「長溝」に該当すること、スライド片7がカセット収納箱1の上面の空間部分5には摺動せず、吊板2の長溝6だけに摺動する場合でも構成要件(二)の「長溝に摺動自在に装着」に当たることは、前に説示したとおりである。

また、本件の証拠及び弁論の全趣旨を総合しても、原出願に係るものを含めた本件特許権の出願経過から、構成要件(二)を被告主張のように解釈すべきものと認めることはできない。

さらに、被告が先願の発明との対比をいう点についても、右発明は、ガイド片10(これが本件特許発明の「スライド片」に対応する。)とバネ11の撥条力によってカセットをカセット函内に定着させ、次に押釦6の操作によってカセット函1を下降させることを特徴とするものであって(乙二)、本件特許発明とは別個の発明であり、被告装置とも構成を異にすると認められるから、右先願の発明を考慮して本件特許発明の技術的範囲を定めるべきものと解することはできない。

したがって、被告の右主張はいずれも採用できない。

(五) 以上によれば、右(一)記載の被告装置の構成は、構成要件(二)を充足すると認められる。

4  構成要件(三)の該当性について

(一) 構成要件(三)(「該スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けたこと」)に対応する被告装置の構成は、次のとおりである(別紙「当事者の主張」五頁及び六頁各上段の一5(一)(3)及び四頁下段の二5(一)(1)のとおり、当事者間に争いがない。)。

「8はタンブラーバネであって、このタンブラーバネ8が第2図及び第3図(A)に示すように、一端が前記スライド片7の奥部に、他端が吊板2の上面に軸部11を支点として回動する回動板9の自由端9aにそれぞれ係着され、スライド片7を吊板2のストッパー2cに押し付けている。」

(二) 被告は、別紙「当事者の主張」の三3(一二頁及び一三頁各下段)記載のとおり、本件特許発明においてはタンブラーバネの端部のうちスライド片側でない方の端部は装置本体に固定されていることを要するのに対し、被告装置ではこれが回動板の自由端に係着されていて回動するから、構成要件(三)を充足しないと主張している。

(三) そこで検討すると、本件特許発明の特許請求の範囲には、スライド片がタンブラーバネに取り付けられ、両者が連動する旨が記載されているだけであって、タンブラーバネの具体的取付構造、特に装置本体側にどのように取り付けられるかについては何ら限定が付されていない。また、本件特許発明の作用及び効果に照らしても、タンブラーバネが装置本体に固定されていなければならないと解することはできない。

そうすると、構成要件(三)には、本件特許発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、装置本体側との取付方法のいかんを問わず、タンブラーバネの一端がスライド片に取り付けられ、両者が連動するという構成全般が含まれると解するのが相当である。

そして、被告装置においては、タンブラーバネ8の一端がスライド片7の奥部に取り付けられ、両者が連動することにより、タンブラーバネ8の弾発力を利用して自動的にカセットaの挿入及び脱出動作が行われるから、右(一)記載の被告装置の構成は、構成要件(三)に該当すると認められる。

5  右のとおり、被告装置は本件特許発明の構成要件(一)ないし(三)のいずれをも充足するから、構成要件(四)(「構成要件(一)ないし(三)を特徴とするカセット装填装置」)をも充足すると認められる。

6  作用及び効果について

(一) 被告は、別紙「当事者の主張」の二3(三頁下段)及び三3(二)(一二頁及び一三頁各下段)記載のとおり、本件特許発明はその明細書に記載された目的及び効果を奏しない、また、被告装置は本件とは別の特許発明(乙一)の実施品であり、タンブラーバネの端部が回動板の自由端に係着されていることによって、本件特許発明と異なる作用及び効果を奏すると主張するので、この点につき検討する。

(二) まず、本件特許発明の作用及び効果については、本件特許権に係る明細書に前記一1(一)(4)及び(6)のとおり記載されているところ、本件特許発明を実施した場合に右作用及び効果を奏しないことをうかがわせる証拠はないから、本件特許発明は右作用及び効果を有すると認めるのが相当である。

また、証拠(検乙一)によれば、被告装置においては、カセット収納函に対するカセットの挿入又は脱出行程で、スライド片に係着されているタンブラーバネのデッドポイントを越えさせ、その際のタンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセットの挿入又は脱出動作を完了させることができるという本件特許発明の作用や、カセットをカセット収納函に半分程挿入しただけであとは自動的にカセットが吸い込まれるので、少なくとも指先の負傷の不安感がないとともに、快適な装填が楽しめることや、カセットの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができるという本件特許発明の効果を奏しているものと認められる。被告が本件特許発明と異なると主張する作用及び効果は、本件特許発明の作用及び効果を奏した上で、さらにタンブラーバネの端部が回動板の自由端に係着されているという本件特許発明の構成要件を充足する具体的な構成(前記4参照)を採用したことにより奏される付加的な作用及び効果であって、これを理由に被告装置の作用及び効果が本件特許発明と異なるということはできない。

(三) したがって、被告の右主張は採用できず、被告装置は本件特許発明の作用及び効果を奏するものと認められる。

7  なお、証拠(乙三七ないし四〇)によれば、平成八年九月四日、被告は、被告装置が本件特許発明の技術的範囲に属しないことについて、特許庁に対し判定を求め、平成九年一二月一六日、特許庁は、被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属しない旨の判定をしたことが認められる。

しかしながら、特許法七一条による判定の制度は、特許権の設定に関与した行政庁が行う一種の鑑定であって、公正な手続の下における専門家の公的技術的判断として尊重すべきものというにしても、裁判所の訴訟手続に対して法的拘束力を有するものではない。右判定の手続においては、「被告装置のカセット収納函1の空間部分5は、本件特許発明のカセット収納函上面の長溝とはその構成及び機能が相違しており、被告装置は本件特許発明の構成要件(二)を備えていない」ことを理由に、被告装置が本件特許発明の技術的範囲に属しないとの判定がされているが(乙三七参照)、被告装置のカセット収納函1の上面の空間部分5と吊板2の長溝6が本件特許発明の長溝に該当することは、前記3で説示したとおりであって、右判定の結果は採用できない。また、右判定に関して本件訴訟に提出された証拠を総合しても、当裁判所の右判断を妨げるに足りる事情があるものとはいえない。

8  被告は、本件特許権には明白な無効事由が存在するから、原告の請求は権利の濫用に当たるなどとも主張している。

しかしながら、本件特許権が無効であるかどうかは専ら特許庁における無効審判手続において定められるべきであり、特許権が無効である旨の審決が確定するまではこれを有効として取り扱うべきものである。また、仮に、特許権に明白な無効事由が存在する場合には当該特許権に基づく請求が権利の濫用に当たり得る場合があるという見解を採る余地があるとしても、本件においては、記録を精査しても、本件特許権に明白な無効事由が存在するとは認められない。したがって、被告の右主張は採用できない。

9  以上によれば、被告装置は本件特許発明の技術的範囲に属すると認められるから、被告がこれを製造販売した行為は、本件特許権の侵害に当たる。

二  争点2(損害の額)について

1  被告が、昭和六〇年から平成元年二月二〇日までの間に、一二九万〇一一五台の被告装置を製造し、販売したことは、前記第二、一4のとおり、当事者間に争いがない。

2  証拠(甲三〇、三一の1、2、三二)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五三年ころから昭和六二年ころまでの間、原告は複数の第三者と、本件特許権(ただし、出願公告前は特許出願後における特許を受ける権利を、出願公告後特許登録までの間は平成六年法律第一一六号による改正前の特許法五二条一項の権利を対象としていた。)につき通常実施権の許諾契約を締結していたこと、右契約においては、本件特許権を含む我が国の特許権四件及び外国(アメリカ合衆国、ドイツ連邦共和国、オランダ王国及びイタリア共和国)の特許権四件が許諾の対象となっていたこと、許諾の相手方は、右各権利の実施許諾を受ける対価として、契約の有効期間中に一件又は複数の権利を実施して製造、販売等した製品につき、一台当たりの金額として定められた実施料を原告に支払う旨約していたこと、一台当たりの実施料の額は、四〇円と定める場合と、四半期ごとの製造販売台数に応じて、五〇万台までは三〇円、五〇万台を超え一〇〇万台までは二〇円、一〇〇万台を超えた分については一〇円と定める場合とがあったこと、原告は実際にも右約定に従って実施料の支払を受けていたことが、認められる。

また、前記争いのない被告装置の製造販売台数からすれば、四半期ごとの製造販売数量は、五〇万台未満であると推認できる。

3  右の事実を総合すれば、本件特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額(特許法一〇二条二項)としては、被告装置一台当たり三〇円と認めるのが相当である。

4  したがって、原告は被告に対し、特許権侵害による損害賠償として、特許法一〇二条二項に基づいて、右1の数量に右3の金額を乗じた三八七〇万三四五〇円を請求できると認められるから、原告の損害賠償請求は、右金額及びこれに対する不法行為の後である平成五年五月三〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

三  よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一〇年九月八日)

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 中吉徹郎)

(別紙) 被告装置目録

一 図面の説明

第1図ないし第8図はイ号装置であるS-26ないしS-28のカセット式テーププレーヤのカセット装填装置を示すもので、第1図は本装置の全体を示した斜視図、第2図は本装置の一部分解斜視図、第3図(A)は動作態様を示す平面図、第3図(B)は第3図(A)の中央部分を拡大し、一部を切欠して示した平面図、第4図(A)(B)は第3図(A)のX-X線に沿った本装置の一部縦断側面図、第5図(A)(B)は第3図(A)の状態からさらに進んだ動作態様を示す平面図、第5図(c)は本装置の一部拡大平面図、第6図(A)(B)は本装置の一部拡大斜視図、第7図は本装置の動作態様を示す全体の斜視図、第8図は、カセット脱出時の動作態様を示す平面図、第9図ないし第11図はロ号装置である装置であるS-27の相違部分の要部を示すもので、第9図は、第2図に対応する図、第10図(A)(B)は第6図(A)(B)に対応する図、第11図は第7図に対応する図である。

二 構成の説明

1 図において、1はカセット収納函、2は吊板、3は装置主体であって、第1図又は第2図に示すように、吊板2の一側がカセット収納函1の一側上に重合して、カセット収納函1の上面ほぼ中央部の突起1a、1aが吊板2の一側の孔2a、2aに回動自在に嵌合して接続され、かつ、第1図と第7図間との動作変位の相違に示すごとく、この吊板2の他側2bは装置主体3に対して回動自在に接続されている。こうして、上記カセット収納函1は、吊板2の装置主体3に対する接続部を回動枢軸として、上方の再生待機位置から下の再生位置間を上下移動自在に形成されている。

2 また、第2図に示すように、上記カセット収納函1の上面には、その前後に幅広い部分を、中間に幅狭の部分を有した空間部分5が形成されている。空間部分5の幅狭の部分にはその両側縁部1e、1eより立ち上がり、かつ左右方向に渡された架橋板1cが設けられている。この空間部分5の幅狭の部分の両縁間の間隔は約9ミリメートルであり、その両側縁部1e、1eより立ち上った部分の架橋板1cの底間隔の寸法は約10ミリメートルで、同背面側の上部左右問の寸法は約7ミリメートルに形成されている。

3 他方、吊板2の上面には、第2図に図示したように長溝6が形成され、この長溝6の手前端部には吊板2の一端部2e、2eより立ち上がり、かつ左右方向に渡された後述するスライド片7が始端方向に移動したときその移動を阻止するストッパ2cが設けられている。

4 7は、第2図及び第4図(A)(B)に示すように、全体がほぼ鈎形をした合成樹脂製のスライド片であり、このスライド片7は前後に渡ってほぼ同一幅で、中間部が上下方向に湾曲するように肉薄に形成された板状部7eを有し、その奥部下方には板状部7eに比べて左右に幅広い突出部7aが垂設され、手前の先端部の下部には突起部7bが、その上部には当接部7gを有する膨出部7dがそれぞれ設けられ、この膨出部7dの左右にはそれより一段下がった段部7y、7yが設けられ、この段部7y、7yの両縁間の幅L1は約7ミリメートルである。

5 また、板状部7eの奥部上方の係合部7cにはストッパ2cに当接するストッパ部分7fが設けられ、また、スライド片7の突出部7aと係合部7cとがそれぞれ長溝6の表裏の両縁を狭持し、カセットaの挿入に伴いスライド片7を吊板2の長溝6の終端方向へ移動させると、前記段部7y、7yが長溝6の背面両縁に当接して、スライド片7は長溝6を移動可能となっている。

6 そして、第4図(A)に示すように、カセット収納函1にカセットaを挿入した際に、カセットの上面にスライド片7の突起部7bが乗り上げると板状部7eが湾曲して架橋板1cの背面前縁に押し付けられ、当接部7gが架橋板1cと対峙し、そして、更にカセットaを押し進めるとスライド片7の突起部7bが、策4図(B)に示すようにカセットaの軸穴、aに篏合されると同時にカセットaの先端で突出部7aが押されて板状部7eが段部7y、7yと上面とのガタ分下向きに傾いて板状部7eおよびその先端部はカセットaの上面に密着し、カセットaと共にスライド片7は吊板2の長溝6の終端まで移動させられる。この場合、前記のようにカセット収納函1は吊板2の下に重合しているので、カセット収納函1に形成されている空間部分5は吊板2に形成されている長溝6よりカセット収納函1の上面の板厚分より下方に位置している。もって、スライト片7の板状部7eの中間より先端側の突起部7bの突出部分を除いた段部7y、7yより膨出部7dにかけての上部は、前記空間部分5の幅狭の部分及び同部分の両側縁部1e、1eの立ち上り部より上方の架橋板1cの背面内の空間部分を架橋板1cに接触しなから移動する。

7 8はタンブラーバネであって、このタンブラーバネ8は第2図及び第3図(A)に示すように、一端が前記スライド片7の奥部に、他端が吊板2の上面に軸部11を支点として回動する回動板9の自由端9aにそれぞれ係着されスライド片7を吊板2のストッパ2cに押しつけている。

8 16は脱出用釦17の中間に設けられた支片17aに一端が、また他端が前記回動板9の中間部に設けられた孔9bにそれぞれ係合された連結片である。この連結片16と支片17aと孔9bの各形状は第5図(c)に示す通りである。

9 20は吊板2の上板表面の前方寄りに枢軸21を介して回動自在に取り付けられた比較的重量のある板材から成る負荷部材で、板面の大きい負荷部分20aと、板面の小さい補助部分20bとを有し、その補助部分20bにカセット感知レバー10の一端10bの先端を連結した連結部20cと、再生位置において前記スライド片7のストッパ部分7fと係止してその復元を拘束する長い係止片20dとが設けてある。

10 そして、カセットaの挿入に伴いスライド片7を第3図(A)(B)に示す状態から吊板2の長溝6の終端方向へ移動させると、スライド片7は先ずタンブラーバネ8の弾力に抗して進み、前記回動板9には、図中反時計方向の回動力が付勢され、さらに進んで、回動板9の軸部11と回動板9の自由端9aとタンブラーバネ8の一端とを結ぶ線が一直線上となる位置から前記タンブラーバネ8の一端が越えると回動板9は連結片16の一端と回動板9の中間部に設けられた長孔9bとのガタ分に相当して第5図(A)の仮想線の位置から同図実線の位置に回動するので、以後タンブラーバネ8の弾発力によって、カセットaと共にスライド片7は吊板2の長溝6の終端まで移動させられる。

11  第2図、第3図(A)(B)、第5図(A)(B)及び第6図(A)(B)に示すように、吊板2の背面にはほぼ直角型状のカセット感知レバー10が設けられ、このカセット感知レバー10はその一端と吊板2との間に復帰スプリング12が張設され、軸部11を支点として回動自在となっている。カセット挿入感知レバー10の係止部10aは第2図又は第6図(A)(B)に示すように装置主体3の下方基板に固定して植立された係合部13に係脱自在となっており、カセット収納函1に挿入されたカセットaに篏合したスライド片7がカセット感知レバー10の一端10bに当接されるまでは、復帰スプリング12の引っ張りにより、第6図(A)のように、係止部10aと係合部13とは係合されているが、カセット感知レバー10の一端10bがスライド片7によって押されると、第6図(B)のように、その係止部10aと係合部13との係合がはずされる。すると、負荷部材20が、カセット感知レバーの一端10bと連動して枢軸21を軸に時計方向に回動してその係止片20dがスライド片7のストッパ部分7fに当接して、第7図のようにアーム19がスプリング14により矢印方向に引っ張られて回動し、吊板2及びカセット収納函1は下方の再生位置へ移動するように構成されている。

12 逆に、スライド片7を吊板2の長溝6の終端から始端へ向けて復帰させる場合は、第8図に示すように、脱出用釦17をスプリング14に抗して押せば、吊板2及びカセット収納函1が持ち上がると共に連結片16を介して、回動板9が図中反時計方向に回動し、回動板9の軸部11と回動板9の自由端9aとタンブラーバネ8の一端とを結ぶ線が一直線となる位置から回動板9の自由端9aが越えると連結片16の一端と回動板9の中間部に設けられた長孔9bとのガタ分に相当して回動板9が同図実線の位置から同図仮想線の位置に回動するので、スライド片7にタンブラーバネ8の弾発力が作用し、かつ、カセット感知レバー10が復帰スプリング12により復元して係止部10aは係合部13に係合される。

13 一方、カセット感知レバー10の回動により、負荷部材20が反時計方向に回動し係止片20dがスライド片7のストッパ部分7fから離れるので、スライド片7は負荷部材20に拘束されることなく、タンブラーバネ8の弾発力により吊板2の長溝6の始端方向に摺動すると共に、ストッパ部分7fがストッパ2cに当接し、かつカセットaの最終脱出位置において、第4図(A)に示すようにスライド片7の突起部7bがカセットaの軸穴、aから脱してカセットaの上面に乗り上がり、この状態で、カセットaはカセット収納函1に対し、摘持できる状態に保持される。

14 S-27においては、負荷部材20が設けられておらず、かつ、第9図ないし第11図に示すように、以下の構成が変更ないし付加されている。

すなわち、30は吊板2の一方の袖板31に設けた斜状の係合孔でその両端部に水平に延びる上位受部30bと下位受部30aとが連接している。

32はカセット感知レバー10の一方の側縁後端に設けられた舌片である。

34は装置主体3の側面に前後動可能に取り付けられ、スプリング35によって常時後方に弾圧付勢された作用片で、その前方側面に軸ピン33が設けてあり、これが非プレー状態において、前記係合孔30の下位受部30aに係合し、プレー状態では上位受部30bに係合する。

また、作用片34には、脱出用釦17に設けた段部36と係合して前方に共動する段部34aと、非プレー状態で前記舌片32と係合して作用片34の前方作動位置を保持する突片37とがそれぞれ設けてある。

したがって、カセットaの挿入により、カセット感知レバー10の一端10bが、カセットaにより押圧されるとカセット感知レバー10はスプリング12に抗して、第10図(A)の状態から反時計方向に水平回動して第10図(B)で示すように舌片32が突片37よりはずれる。すると、作用片34がスプリング35により後方向に移動するので、段部34aが脱出用釦17の段部36と当接して作用片34の後方への移動は阻止される。一方、作用片34の後方への移動により、軸ピン33が係合孔30に案内されながら、下位受部30aから上位受部30bに移行するので、水平状態に保持されていた吊板2は、下向きに傾動するとともに、カセット収納函1は水平下降して、第11図で示すプレー状態となる。

また、カセットを脱出する際に、脱出用釦17をスプリング18に抗して押し込むと、段部36と段部34aとの当接により、作用片34がスプリング35に抗して前方に移動するので、その軸ピン33が係合孔30の上位受部30bから下位受部30aに移行して吊板2は上向きに傾動する。

また、脱出用釦17の押し込みに伴い、カセットaが脱出方向に移動すると、カセット感知レバ110はスプリング12により、第10図(B)の状態から第10図(A)の状態に復元するので、この状態において脱出用釦17の押圧を解くと、脱出用釦17が復元するとともに段部36が段部34aより離れるので、作用片34がスプリング35により、若干後方に移動して、突片37が舌片32に圧接するとともに、軸ピン33が下位受部30aに係合していることにより、吊板2は水平状態に保持されて非プレー状態となる。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図(A)

〈省略〉

第3図(B)

〈省略〉

第4図(A)

〈省略〉

第4図(B)

〈省略〉

第5図(A)

〈省略〉

第5図(B)

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第5図(C)

〈省略〉

第6図(A)

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第6図(B)

〈省略〉

第7図

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第8図

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第9図

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第10図(A)

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第10図(B)

〈省略〉

第11図

〈省略〉

(別紙)

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B1) 昭57-31213

〈51〉Int.Cl.3G 11 B 15/66 識別記号 101 庁内整理番号 7407-5D 〈24〉〈44〉公告 昭和57年(1982)7月3日

発明の数 1

〈54〉カセツト型テーブレコーダにおけるカセツト装填装置

〈21〉特願 昭52-2144

〈22〉出願 昭44(1969)2月21日

〈52〉特願 昭44-12511の分割

〈72〉発明者 樗木勇蔵

東京都大田区西椛谷2丁目31-17ベルテツク株式会社内

〈71〉出願人 ベルテツク株式会社

東京都大田区西椛谷4丁目31番5号

図面の簡単な説明

図面は本発明の一実施例を示すものであつて、第1図は全体の斜視図、第2図は同上平面図、第3図は動作態様を示す全体の平面図、第4図は一部の縦断側面図、第5図は一部の斜視図である。

発明の詳細な説明

本発明は、カセツトをカセツト収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセツト型テーブレコーダにおけるカセツト装填装置に関するものである。

録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセツト収納函にカセツトを挿入し、ともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめてカセツトを装填する型式のカセツト型テーブレコーダにおいては、カセツト挿入時に、カセツト収納函に対するカセツトの水平方向の挿入完了時点で、カセツト収納函とともに下方へ移動するので、カセツトを押込み操作している手指の指先や爪先に傷害を起すことが多く、また、カセツトの脱出は、カセツト収納函を録音、再生等の動作位置から動作待機位置に上動させた後収納されているカセツトを押出す二行程関連動作によつて行われるので、その機構が複雑であるはかりでなく、カセツトの脱出が円滑かつ適切に行われ難い欠点があつた。

本発明は上記の如き従来の欠点を一掃すべく創作されたものであつて、録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセツト収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセツトをカセツト収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセツト型テーブレコーダにおいて、カセツト収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセツトに係合してカセツトの挿入脱出に関与するスライド片を設け、該スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けたことにより、カセツト収納函に対するカセツトの挿入または脱出行程で、スライド片に係着されているタンブラーバネのデツドポイントを越えさせ、その際のタンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセツトの挿入または脱出動作を完了させることができ、もつて、カセツト挿入操作を手指や爪先を負傷することなく安全に行うことができ、またカセツトの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができるカセツト型テーブレコーダにおけるカセツト装填装置を提供しようとするものである。

本発明の一実施倒を図面について説明すれは、1はカセツト収納函、2は吊板、3は装置主体であつて、カセツト収納函1はその上面ほぼ中央で板ばね4、4を介して吊板2の一端に回動自在に接続され、かつこの吊板2の他端は装置主体3に対して  またはそれと同効作用をなす部材あるいは機構によつて回動自在に接続されている。そして、上記カセツト収納函1は、吊板2の装置主体3に対する接続部を回動枢軸として、上方の録音、再生等の待機位置から下方の録音、再生等の動作位置間を上下移動自在となつている。

また、上記カセツト収納函1の上面はその前後方向に長溝5が形成されており、吊板2にもカセツト収納函1側の長溝5に連続する長溝6が形成されていて、カセツト収納函1側の長溝5には吊板2側の長溝6にかけて摺動可能なスライド片7が嵌合されている。このスライド片7には下方突出部7aと突起部7bかあつて、カセツト収納函1にカセツトaを挿入した際に、その先端で突出部7aが押され、これに伴つて突起部7bがカセツトaの軸穴a'に嵌合されるに至るものである。すなわち、上記スライド片7は、カセツト収納函1に挿入されたカセツトaに係合してともに移動するものである。8はダンブラーバネであつて、このタンブラーバネ8は一端が前記スライド片7に、他端がカセツト収納函1上の適宜の位置間にそれぞれ係着されている。そして、スライド片7をカセツト収納函1の長溝5の始端から吊板2の長溝6方向へ移動せしめると、スライド片7はまずタンブラーバネ8の弾力に抗して進むが、スライド片7がタンブラーバネ8の両端間が最短距離となる点、すなわちデツドポイントを越えるとスライド片7はタンブラーバネ8の弾発力によつて長溝6の終端まで自動的に移動せられ、またスライド片7を長溝6の終端から長溝5の始端へ向けて移動させる場合にも、タンブラーバネ8のデツトポイントを越えると前記同様にスライド片7はタンブラーバネ8の弾発力によつて自動的にその方向に移動せられる。9はナイフエツジであつてこのナイフエツジ9の先端はカセツト収納函1側の長溝5に位置するスライド片7に当接し、かつその状態のスライド片7を押付けている。

一方、カセツト収納函1の 部には第5図に示すようにカセツト挿入感知レパー10が臨ませてあり、このカセツト挿入感知レパー10は軸11を中心にして前後回動自在となつており、かつ軸11には復旧スプリング12が介装されている。上記カセツト挿入感知レパー10の係止突起10aは移動板13の係合鉤部13aに係合しており、移動板13はスプリング14によつて矢印方向に引付けられている。そして、カセツト挿入感知レパー10が挿入されたカセツトaにより押されると、その係止突起10aが移動板13の係合鉤部13aよりはすれ、移動板13はスプリング14により矢印方向へ移動するように構成されている。また、移動板13には傾斜部をもつ案内溝15が形成されており、この案内溝15には吊板2と一体となつたガイド突起16が嵌合されていて、カセツト収納函1は、移動板13が矢印方向へ移動することにより、その案内溝15の傾斜部で可動規定範囲に規制されて下方の録音、再生等の動作位置に移動せられるようになつている。

17はカセツトの脱出操作釦であつて、該脱出操作釦17に連動すろ脱出操作機構は次の如き作動をなすものである。すなわち、カセツトaがカセツト収納函1とともに録音、再生等の動作位置に装填されている状態において脱出操作釦17を押すとその往動によつてカセツト収納函1が上方へ移動せられるとともに、該脱出操作釦17と連動するようになされているナイフエツジ9が、その先端が長溝6の終端に臨むように回動させろべく作動し、またその復動に伴つてナイフエツジ9を長溝5の始端方向へ移動せしめるべく作動する。

叙上の如き構成において、カセツトaをカセツト収納函1に挿入すれば、まずスライド片7の突起部7bがカセツトaの上面に摺接し、さらにカセツトaが挿入方向に押進められると、カセツトaの先端にスライド片7の突出部7aが当つてこれが押されるので、スライド片7の突起部7aがカセツトaの軸穴a'に嵌合する。さらにカセツトaが挿入方向に押進められると、スライド片7は、カセツトaとともにタンブラーバネ8に抗して吊板2の長溝6を摺動するが、タンブラーバネ8のデツドポイントを越えると、その弾発力によつてカセツトaは自動的に吸込まれ、カセツト収納函1内に完全に収納される。そして、この状態に至ると、カセツトaによつてカセツト挿入感知レパー10が作動せられ、係止突起10aと移動板13の係合鉤部13aの係合が解かれ、スプリング14の引付けにより、移動板13の案内溝15に沿つてガイド突起16と一体となつた吊板2が降下することによつて、カセツトaはカセツト収納函1とともに下方の録音、再生等の動作位置に移動し、かつその位置の所定機構に装填される。

一方、上記の如く録音、再生等の動作位置に装填されたカセツトaを脱出させるには、脱出操作釦17を押すが、その往復操作によりカセツトaはカセツト収納面1とともに上方へ移動せられ、次いでその復動に伴つてナイフエツジ9がスライド片7を長溝5の始端方向へ押動させるべく移動せられるので、スライド片7はタンブラーバネ8のデッドポイントを過きる点でその弾発力で8動的に移動せられ、カセツト収納函1内のカセツトaはスライド片7に押されて脱出せられる。

本発明は、以上説明したように録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセツト収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセツトをカセツト収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセツト型テーブレコーダにおいて、カセツト収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセツトの挿入脱出に関与するスライド片を設け、該スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けたものであるから、カセツト収納函に対するカセツトの挿入または脱出行程で、スライド片に係着されているタンブラーバネのデツドポイントを越えさせ、その際のタンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセツトの挿入または脱出動作を完了させることができる。したがつて、本発明によれば、カセツトをカセツト収納函に半分程挿入しただけであとは自動的にカセツトが吸い込まれるので、少くとも指先の負傷の不安感がないとともに、快適な装填が楽しめる。またカセツトの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができる等、多くのすぐれた効果が得られる。

〈57〉特許請求の範囲

1 録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセツト収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセツトをカセツト収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセツト型テーブレコーダにおいて、カセツト収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセツトに係合してカセツトの挿入脱出に関与するスライド片を設け、該スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けたことを特徴とするカセツト装填装置。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

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第4図

〈省略〉

第5図

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(別紙)

当事者の主張

一 請求原因 1 原告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その登録にかかる発明を「本件特許発明」という。)を有していた。 登録番号 第一一三九八四八号 発明の名称 カセット型テープレコーダにおけるカセット装填装置 出願日 昭和四四年二月二一日 出願公告日 昭和五七年七月三日 出願公告番号 昭五七-三一二一三 登録年月日 昭和五八年三月二四日 2 本件特許発明の特許請求の範囲は、別紙特許公報の該当欄記載のとおりであり、これを分説すると次の(一)ないし(四)の構成からなる。 (一) 録音、再生等の動作位置上方の動作待機位置にあるカセット収納函を吊板により装置主体に対して上下動自在に装着して、カセットをカセット収納函に挿入してともに下方の録音、再生等の動作位置に移動せしめるカセット型テープレコーダである。 (二) カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセットに係合してカセットの挿入脱出に関与するスライド片を設けたことにある。 (三) 該スライド片と係着連動するタンブラーバ 二 請求原因に対する認否 1 請求原因1は認める。 2 請求原因2は、別紙特許公報の特許請求の範囲の項に、(一)ないし(四)の構成が記載されていることは認める。

ネを設けたことにある。 (四) 以上の(一)ないし(三)の構成から成ることを特徴とするカセット装填装置である。3 本件特許発明の目的は、カセット収納函に対するカセットの挿入又は脱出行程で、スライド片に係着されているタンブラーバネのデッドポイントを越えさせ、その際タンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセットの挿入又は脱出作動を完了させることができ、もって、カセットの挿入操作を手指や爪先を負傷することなく安全に行うことができ、また、カセットの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができるカセット型テープレコーダーにおけるカセット装填装置を提供しようとするものである。 そして、その効果は、カセットをカセット収納函に半分挿入しただけであとは自動的にカセットが吸い込まれるので、少なくとも指先の負傷の不安感はないとともに、快適な装填が楽しめるというものである。 4 被告は別紙被告装置目録記載のカセット式テープレコーダ装置S-26(イ号装置)、S-27(ロ号装置)、S-28(ハ号装置)を業として製造販売した(以下、これらを合わせて「被告装置一という。)。 5 本件特許発明と被告装置との対比 (一) 被告装置の構成を別紙被告装置目録に基づき説明すれば、以下のとおりである。 (1) 1はカセット収納函、2は吊板、3は装置主体であって、カセット収納函1が吊板2に回動自在に接続され、かつ、第1図と第7図間との動作変位の相違に示すごとく、この吊板2の他側2bは装置主体3に対して回動自在に接続されている。こうして、前記カセット収納函1は、吊板2の装置主体3に対する接続部を回動枢軸として、上下移動自在に形成されたカセット型テーププレーヤである。 (2) カセット収納函1の上面には、その前後に幅広い部分と幅狭の部分を有した空間部分5、そして吊板2の上面にはその前後方向に長溝6が形成 3 請求原因3は、同趣旨の記載が別紙特許公報中の記載の一部として存在することは認めるが、本件特許発明は原告が主張するような目的及び効果を奏しない 4 請求原因4について 被告が、製品番号S-26、S-27及びS-28のカセット式テーププレーヤー装置を業として製造販売したことは認めるが、被告装置がカセット式テープレコーダ装置であることは否認する。 別紙被告装置目録中、二5及び6項の網掛け部分は否認し、その余は認める。 5 請求原因5(対比)について (一)(1) 同5(一)(1)及び(3)の記述が、被告装置目録記載のとおりであることは認める。 (2) 同5(一)(2)のうち、「スライド片7は空間部分5及び長溝6を移動可能となっている。」との主張は、別紙被告装置目録の記載(「スライド片7

されている。 7は全体がほぼ鈎形をしたスライド片であり、このスライド片7はその奥部下方に突出部7aが垂設され、手前の先端部の下部には突起部7bが設けられている。 第4図(A)に示すように、カセット収納函1にカセットaを挿入した際に、カセットの上面にスライド片7の突起部7bが乗り上げると板状部7eが湾曲して、第4図(B)に示すようにカセットaの軸穴、aに突起部7bが篏合されると同時にカセットaの先端で突出部7aが押されて、板状部7eが段部7y、7yと上面とのガタ分下向きに傾いて板状部7e及びその先端部はカセットaの上面に密着し、カセットaと共にスライド片7は吊板2の長溝6の終端まで移動させられる。 (3) 8はタンブラーバネであって、このタンブラーバネ8は第2図及び第3図(A)に示すように、一端が前記スライド片7の奥部に、他端が吊板2の上面に軸部11を支点として回動する回動板9の自由端9aにそれぞれ係着され、スライド片7を吊板2のストッパー2cに押しつけている。 (4) 以上の(1)ないし(3)の構成から成ることを特徴とするカセット装填装置である。 (二) 次に、イ号装置の目的と効果は次のとおりである。 カセット収納函1に対するカセットの挿入または脱出行程時において、別紙目録の二10ないし12の「そして、カセットaの挿入に伴い……係合部13に係合される」との構成・動作、又は別紙目録の二15の一三行目から末行までの「したがって、カセットaの挿入により……非プレー状態となる。」との構成・動作は、すなわち、スライド片7に係着されているタンブラーバネ8のデッドポイントを越えさせ、その際のタンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセットaの挿入または脱出動作を完了させており、被告装置は、カセットの挿入操作を手指や爪先を負傷することなく安全に行うことができ、またどセットaの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適正ならしめることができるカセット型テーププレーヤにおけるカセット装填装置である。は吊板2の長溝6の終端まで移動させられる。」(6項七ないし八行))と相違し、否認する。 被告装置目録中には、スライド片7の限られた一部が空間部分5の一部を通過する趣旨の記載はあるが、原告は、「スライド片7は空間部分5及び長溝6を移動可能となっている。」と主張することで、「移動可能なように装着されている」との評価も含めて主張するように読みとれるし、明細書中の「摺動」を「移動」と同義であると主張して、「移動」に積極的・目的的な意味を持たせようとしている。しかしながら、空間部分5は、スライド片7が長溝6を摺動しつつ移動する際に、カセット収納函に接することによって移動が妨げられないように設けられた逃げ部に過ぎず、仮にスライド片7の一部が空間部分5の一部を通過するとしても、スライド片7が空間部分5に対しても、原告の意図する意味で「移動可能」となっているとはいえない。 (二) 同5(二)は否認する。本件特許発明と構成を異にする被告装置は、本件特許発明の目的及び効果を同じくするものではない。 また、「タンブラーバネ8のデッドポイントを越えさせ、その際のタンブラーバネの弾発力を利用して」との記述は、別紙目録の記載と相し被告装置の作用を正確に記述したものではない。

また、その効果については、カセットaをカセット収納函1に挿入させると、スライド片7の突起部7bがカセットaの軸穴、aに篏合され、更にカセットaを半分程挿入するとあとは自動的にカセットが吸い込まれるので、少なくとも指先の負傷の不安感がないとともに、快適な装填が楽しむことができる。また、カセットの脱出機構の簡素化を図り、しかもその脱出作動を円滑かつ適切ならしめることができる。 (三) 前記2の本件特許発明の構成要件と被告装置の構成とを対比すると、(一)と(1)、(二)と(2)、(三)と(3)、(四)と(4)のそれぞれは、前者の本件特許発明の各構成要件に後者のイ号装置の各構成が符合ないしは包含されている。 そして、前記3の本件特許発明の目的及び効果と前記(二)のイ号装置の目的及び効果とは各々一致する。 したがって、イ号装置は本件特許の技術的範囲に属し、本件特許権を侵害するものである。 6 損害金について (一) 被告は、昭和六〇年以来昭和六四年二月二〇日(本件特許発明の存続期間満了日)までの間、少なくとも合計一二九万〇一一五台の被告装置を製造販売した。 (二) 原告は、他の数社とは特許権実施契約を締結している。被告のように契約を拒否し裁判で争わざるをえない場合には、実施料相当額は一台当たり三五円以上が相当である(甲第三〇号証及び甲第三一号証)。 (三) したがって、一二九万〇一一五台の被告製品に対する損害金総額は四五一五万四〇二五円を下らない。 四 原告の反論 1 構成要件(一)について テープレコーダーもテーププレーヤーも、日本語で表現すれば磁気録音再生機であり、演奏する点では機能上も同じである。本件で問題としているのは、カセットを装填する機構であって、両者の機能上の差異は何も現われないし、特許請求の範囲には「録音、再生等」と記載されている。したがって、テーププレーヤーは、テープレコーダーと同種かその概念に含まれるものである。 (三) 同5(三)は争う。 (1) 被告装置はカセット式テーププレーヤーであって、本件特許発明の対象であるカセット式テープレコーダーではないから、本件特許発明の構成要件(一)を満たさない。 (2) 被告装置は、構成要件(二)中の「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され」との構成及び構成要件(三)中の「係着連動」との構成を満たさない(なお、最終準備書面(四)一(1)ないし(3)に引用された各書面の主張)。 6 請求原因6(損害金)について (一) 同6(一)は認める。 (二) 同6(二)及び(三)は争う。 原告が主張する実施契約は、いずれも本件特許以外に六ないし七件の特許権を同時に対象としており、これらに基づく実施料をもって本件特許の実施料相当額算定の基礎とすることは不当である。 三 被告の主張 1 構成要件(一)について 被告装置は再生機能しか有しないテーププレーヤーであって、録音機能と再生機能を有するテープレコーダーとは機能上同じではない。このことは、本件公報中の図面の説明において「録音」の記述が多々あり、第二図において「ヘッドが二つ」あることからも明らかである。よって、構成要件(一)を充足しない。

2 構成要件(二)について 本件特許発明は、カセットをカセット収納函に半分程挿入すると、その後カセットは吸い込まれて録音再生位置にもたらされることをその目的としており、このためにスライド片7の先端がカセットの軸穴に係合して長溝5、6を移動させる必要があるのであって、本件特許発明が長溝5、6の形状・構造に特徴を有し、その特徴ある形状・構造部分をスライド片7が円滑に移動する点に発明の本質があるわけではない。本件特許発明の長溝5、6に該当する否かは、スライド片7の移動通路としての空間部分がカセット収納函1の上面に形成されているか否かで決まり、両方の溝は単に連続されていれば足りる。このことは、本件特許発明の明細書(甲第一号証)記載(第二欄三五行ないし三七行、第三欄七行ないし九行)からも、当業者の用いる用語法(甲第三号証ないし甲第二四号証)からも明らかであって、被告装置の空間部分5と本件特許発明の長溝5の技術的構成は全く同一である。 被告の主張は、単に設計上の微差を技術思想の相違にすり替えているに過ぎないし、本件特許発明の原出願経過に基づく主張も、かかる経過が分割出願の要件を具備するか否かについて参酌されることはあっても、本件特許発明の技術的範囲の解釈に用いることは誤りである(詳細は、原告準備書面(九)の五項及び六項、(10)六項及び七項、(一三)の六項、(一七)一項、(一八)二項) 2 構成要件(二)について (一) 本件特許発明は、「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され、かつカセットに係合してカセットの挿入脱出に関与するスライド片を設けたこと」を構成要件とするものであるが、右「長溝」はスライド片を摺動自在に装着するものであり、「カセット収納函上面から吊板にかけて」との文言からも明らかなように、長溝の形成がカセット収納函の上面を起点としていることからみて、少なくとも長溝がカセット収納函の上面に存在していることが要件であることはいうまでもない。 すなわち、本件特許発明における長溝は、カセット収納函の上面を起点として該上面から吊板にかけて形成された、スライド片を摺動自在に装着するところの長溝である、換言すれば、長溝がカセット収納函から吊板にかけ渡って形成され、かつ、スライド片が当該長溝に従ってカセット収納函から吊板にかけ渡って摺動自在の装着される構成であると解するのが自然であって、これ以外の解釈、例えば、カセット収納函の上面に形成した長溝がスライド片を摺動自在に装着しない構成でよいとか、単にスライド片の移動を許容する空間であれば足りると解する余地は、本件特許発明の原出願にかかる一件記録(乙第二一号証ないし乙第三五号証)からも、本件特許発明の明細書(甲第一号証)全体の記載からも、また当業者が用いる「装着」の意味(乙第九号証ないし乙第一八号証)からも導き出すことはできない。 (二) 他方、被告装置は、 「カセット収納函1の上面には、その前後に幅広い部分を、中間に幅狭の部分を有した空間部分5が形成されている。」(別紙目録二の2)、 「吊板2の上面には、第2図に図示したように長溝6が形成され、この長溝6の手前端部には吊板2の一端部2e、2eより立ち上がり、かつ左右方向に渡された後述するスライド片7が始端方向に移動したときその移動を阻止するストッパ2cが設けられている。」(同二3)、 「カセットaの挿入に伴いスライド片7を第3図(A)(B)に示す状態から吊板2の長溝6の終端方向へ移動させる」(同二10)、「スライド片7を吊板2の長溝6の終端から始端へ向けて復帰させる場合は、……タンブラーバネ8の弾発力により吊板2の長溝6の始端方向に摺動すると共に、ストッパ部分7fがストッパ2cに当接」(同二12及び13)する、

3 構成要件(三)について タンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセットの挿入又は脱出作動を完了させるという目的を達成するためには、タンブラーバネの他端をスライド片7の摺動範囲の適宜の位置に固定する構成ばかりでなく、可動する構成でも可能である。そして、特許請求の範囲中には「固定」の文言はないし、発明の詳細な説明でも「適宜の位置間にそれぞれ係着されている。」(第三欄一一行ないし一二行)と記載され、固定されている場合よりもさらに広い意味を有していることは明らかであって、本件特許発明の無効審判請求事件における特許庁の審決も、タンブラーバネの他端が「固定」されるとの限定的判断をしていない(甲第二八号証)(被告の3(二)の主張に対しては、準備書面(九)四(三)、(一四)一10(1)、二2(3))。 との構成である。 すなわち、被告装置は、スライド片7は非動作状態では係止部7cのみが吊板の長溝6に対し摺動自在に装着されており、カセット脱出時においては、スライド片7のストッパー部分7fがストッパー2cに当接して前記係止部7cは長溝6の始端を越えてスライド片と摺動する部分の全くない空間部分5まで移動しないようにしたもので、空間部分5は、もっぱらステイド片7の移動時にその板状部7e及びそれより手前の突起部7b、脱出部7dがカセット収納函の上面と摺動しないよう、該カセット収納函の上面に設けた空間であって、スライド片7を摺動自在に装着する機能は全く有していない。 被告装置の吊板に形成した長溝6は、スライド片7を摺動自在に装着する点では本件特許発明における吊板に形成された長溝と一致するが、被告装置のカセット収納函における空間部分5は、本件特許発明におけるカセット収納函に形成された長溝とはその技術的意義を異にし、被告装置が、「カセット収納函上面から吊板にかけて形成された長溝に摺動自在に装着され」との構成を欠くことは明らかである(詳細は、被告準備書面(一四)、(一五)の第三項及び同(一九)の一項)。 3 構成要件(三)について (一) 本件特許発明は、「スライド片と係着連動するタンブラーバネを設けた」ことを構成要件とするものであるが、本件特許発明において、タンブラーバネの弾発力を利用して自動的にカセットの挿入又は脱出動作を完了させるという目的を達成するには、タンブラーバネの他端をスライド片の摺動範囲の適宜の位置に固定して、スライド片の係着点をデッドポイントの位置まで移動させた後反転弾発力をスライド片に付与することが不可欠であり、そのスライド片とタンブラーバネとの連動関係によって初めて本件特許発明が成立するものであるから、構成要件(三)の「係着連動」とは、タンブラーバネの他端をスライド片の摺動範囲の適宜の位置に固定する構成を意味するものである。 (二) 他方、被告装置は、タンブラーバネの一端をスライド片の奥部に、その他端を吊板の上面に軸部を支点として回動する回動板の自由端にそれぞれ係着し、カセツトの挿入時に回動板の回動によりタンブラーバネの反転動作を早め、カセットの脱出時には回動板を前記とは逆方向に回動してタンブラーバネの反転動作を遅らせる構成のものであって、これは、タンブラーバネの他端が回動板の回動に伴い可動する構成(乙第一号証の特許第二〇四九四一六号)であって、タンブラーバネの他端をスライド片の摺動範囲の適宜の位置に固定した構成ではない。したがって、被告装置は、構成要件(三)の「係着連動」との構成を欠くことが明らかである(詳細は被告準備書面(二)の八項。なお、最終準備書面(二)の第二の「同二について」)

特許公報

〈省略〉

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